特にする事もなく天気予報の声に耳を傾ける。明日は春の嵐がくるらしい。やっと少し暖かくなるんだろうか。 室内着に着替えた高耶さんが冷蔵庫の中を開ける音がする。 「なんもねぇな。なー直江なんか食べたいのある?」 「えっと、ハンバーグ」 思わず咄嗟の思いつきを口にしてしまう。 「ハンバーグぅ?」と彼が面白そうに聞き返してきた。子供みたいだと思ったんだろう。自分でもそう思う。 「じゃあ材料買いに行かなきゃ」 そうか、作ってくれるのか。 外食以外で誰かの手作りハンバーグなんて、実家にいた頃以来だ。 「俺もついて行っていいですか」 「おう。荷物持ちな!」 荷物持ちでも何でもしよう。高耶さんの買い物について行くことができ、俺はなんともいいチョイスをしたと喜んだ。 スーパーからマンションまでの帰り道、二人共買い物袋を持って歩く。 まるで新婚みたいだと言ったら、隣の彼はどんな顔をするだろうか。きっと顔を赤くして「気持ち悪いこと言うな」と悪態をつくはずだ。 「つか作り方覚えてっかな俺」 「作ったことあるんですか?」 「うんずっと前。分かんなくなったらネットで調べるか」 軽い方の袋をガサガサ言わせながら高耶さんが言った。 街灯に伸びた段差がある二つの影を見下ろす。 高耶さんの左手がプラプラと揺れているのが視界に入る。俺はもどかしさを隠すように、空いている自分の右手を握り締めた。 next |