第十一話

特にする事もなく天気予報の声に耳を傾ける。明日は春の嵐がくるらしい。やっと少し暖かくなるんだろうか。
室内着に着替えた高耶さんが冷蔵庫の中を開ける音がする。

「なんもねぇな。なー直江なんか食べたいのある?」
「えっと、ハンバーグ」

思わず咄嗟の思いつきを口にしてしまう。
「ハンバーグぅ?」と彼が面白そうに聞き返してきた。子供みたいだと思ったんだろう。自分でもそう思う。

「じゃあ材料買いに行かなきゃ」

そうか、作ってくれるのか。
外食以外で誰かの手作りハンバーグなんて、実家にいた頃以来だ。

「俺もついて行っていいですか」
「おう。荷物持ちな!」

荷物持ちでも何でもしよう。高耶さんの買い物について行くことができ、俺はなんともいいチョイスをしたと喜んだ。

スーパーからマンションまでの帰り道、二人共買い物袋を持って歩く。
まるで新婚みたいだと言ったら、隣の彼はどんな顔をするだろうか。きっと顔を赤くして「気持ち悪いこと言うな」と悪態をつくはずだ。

「つか作り方覚えてっかな俺」
「作ったことあるんですか?」
「うんずっと前。分かんなくなったらネットで調べるか」

軽い方の袋をガサガサ言わせながら高耶さんが言った。
街灯に伸びた段差がある二つの影を見下ろす。

高耶さんの左手がプラプラと揺れているのが視界に入る。俺はもどかしさを隠すように、空いている自分の右手を握り締めた。
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